菊は、奈良時代末から平安時代初めにかけて中国から伝えられました。この可憐な花は平安貴族を魅了し、以来盛んに栽培され、菊に寄せた数々の歌が詠まれるようになりました。
「植えし植えば秋無き時や咲かざらむ花こそ散らめねさえかれめや」在原業平
(真心込めて植えたならば、秋という季節がある限り咲いてくれるだろう。花が散っても根が枯れなければ)
「久方の雲のうへにてみる菊は天つ星とぞあやまたれける」藤原敏行
(宮中の殿上から見る庭の菊は星と見まがうほどに美しい)
また、渡来した折から、この花には邪気を払い長寿を授ける霊力を持つ、という伝説が伴っていました。この伝説をもとに、貴族達は九月九日の「重陽の節句」に、菊の花びらを浮かべた酒を酌み交わしたり、菊の夜露で身体を拭ってたりして長寿を祈ったのです。
「老いにけるよはひもしわものぶばかり菊の露にぞけさはそぼつる」曽根好忠
(老いてしまった年齢も皺ものびそうだ。今朝、菊の露でこの身を濡らしたから)