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Utsuke Bron

キモカワ? コワキモ? 4・5月の林下に出現する妖怪「テンナンショウ」の正体とは?

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キモカワ? コワキモ? 4・5月の林下に出現する妖怪「テンナンショウ」の正体とは?

木々が芽吹き、野にも公園や庭木の植え込みにもさまざまな花が咲く季節となりました。ところが、すがすがしい新緑の野山を歩き、ふと樹影深い林下に目をやると、藪から鎌首をもたげた奇妙な姿の怪物が!胴体は鎖形のまだら模様、どす黒い色の頭は口が裂け。のど元には不気味な筋状の斑点が。ヘビ!? お化け!? と、よく見直すと、どうやら動物ではなく植物のよう。これが野草の中でも格別変わった外見で知られるテンナンショウの仲間です。 

ほんとにあったテンナンショウの怖い話

少年は野山をうろつくことが大好きだった。あるとき少年は、薄暗い森の中で、魔女のような化け物が何匹もたたずむのを目にしてふるえあがり、家に逃げ帰った。その日あったことを親にも話せず、夜寝床に着く前に便所に行き、ふと汲み取り式の便器の下に目をやると、そこに昼間森で見た化け物が漂っていた…。

野草を紹介した地方出版社のとある本に書かれていた、本の著者の幼少期のエピソードです。ここで語られている「化け物」というのは、薄暗い林に生えるマムシグサのこと。
マムシグサは、サトイモ科テンナンショウ(天南星:Arisaema、英語ではCobra lilyとも)属の一種。テンナンショウの仲間は世界に150~200種、日本には30種ほど(変異や亜種が多数あり)が自生しています。コンニャク、ミズバショウも近縁です。漢字では「天南星」。あの、全天でシリウスの次に明るい恒星カノープス(布良星)のこととも、夜空に広がる星の意味をあらわし、特徴的なヤツデのように広がる鳥足状複葉を、星が広がる様にたとえたもの、とされています。
テンナンショウという属名は、漢方薬が由来。
マイヅルテンナンショウ、ムサシアブミ、マムシグサ、コウライテンナンショウなどの塊茎を輪切りにし、石灰でまぶして生成します。サポニン、安息香酸、デンプン、アミノ酸などを含み、
去痰、鎮静、抗痙攣などの作用があり、中風、破傷風、熱性痙攣などに使用されます。
また粉末を傷に塗ると、鎮痛効果や殺菌効果があるとされ、かつては家庭でよく使われていたとか。
この毒性をかつて便所が水洗ではなく汲み取り式がほとんどだった頃、農家では便槽に湧く害虫駆除のためにマムシグサを根ごと引き抜き、便槽に放り込んで殺虫剤として使用していました。子供たちにとっては昔のトイレはそれでなくても恐怖の場所で、そこに奇怪なマムシグサが浮んでいたら、さぞ怖かったことでしょう。似たような思い出を、年配の方たちが語っていました。 

男にも女にもなれる奇怪な花、それは恐怖のフードコート一号館・二号館

ウツボカズラ

ウツボカズラ

テンナンショウは多年草。実生の個体は数年は花をつけず、葉だけが生えては秋に枯れることを繰り返し、その後根茎が太って小さい花をつけるようになります。ちなみに、ヘビの鎌首にも似た花のような部分は実は花ではなく仏炎苞(ぶつえんほう)といい、この中に小さな花(おしべorめしべ)をたくさんつけた肉穂花序が収められています。そして、まだ株が若い時期のテンナンショウは必ず雄株。株が成熟し大きくなるとなんと雌株に性転換します。ところが、土がやせていたり何らかの環境変化で雌株がやせてくると雄株に戻ってしまうのです。

水差しか一輪挿しのような仏炎苞のかたちを見て、東南アジアに生育する食虫植物(昆虫など小動物を罠や粘液で捕らえて養分とする植物)ウツボカズラの仲間だと思う方も多いとか。実際、ウツボカズラにも似ていますし、特にウツボカズラの仲間のサラセニアとは、そこだけ見れば同じ仲間だと思うのも無理はないほどそっくりです。でも、テンナンショウは虫媒花(昆虫をおびきよせて受粉する植物)ではありますが、いわゆる食虫植物ではなく、近縁種でもありません。
でも、この仏炎苞をよく観察してみますと、雄花と雌花で大きさ以外にもちがいがあります。仏炎苞の茎の付け根、一番下の部分に、雄花は隙間があいていますが、雌花にはありません。実はここに、テンナンショウの受粉戦略があります。何と食虫植物と見まごうようなトラップが仕掛けられているのです。
仏炎苞を縦に割ってみると、雄花では苞と花序の間に隙間があり、虫は自由に花の間をうろつけます。ところが雌花は隙間がほとんどありません。受粉の際、おびき寄せられるのはキノコバエというキノコに産卵する習性をもつ昆虫。テンナンショウはキノコに似たにおいを発して、キノコバエを引き寄せるのです。さしずめ、おいしそうなにおいで集客するフードコートでしょうか。雌雄株とも花序の先端部の付属体といわれる棒状のものにネズミ返し(下には降りられるが上には上れないハードル)がついており、一度花に入り込むとハエは仏炎苞の上へと戻ることは出来ず、全身花粉まみれになった状態で雄花の仏炎苞の下部のすき間から脱出、次に雌花に入り込みます。しかしフードコート二号館である雌花には下部にすき間がないのです。雌花の仏炎苞の中でキノコバエはさんざんもがいて死んでしまいます。こうして効率的・確実に、ほぼ全ての雌花が受粉して種をつけるわけです。ハエの命と引き換えに。 

「入り口は上階、出口は下となっております」ウラシマソウの釣り糸もまた恐怖のエントランスだった

ウラシマソウ

ウラシマソウ

マムシグサと並んで多く見かけるテンナンショウの仲間がウラシマソウ。この花は、マムシグサと比べて草丈は低いものの、仏炎苞からにょっきりと跳び出た長い糸状の付属体が何とも印象的で、一度見たら忘れられないインパクトがあります。この糸状の付属体を、昔話の浦島太郎の釣り竿になぞらえて「浦島草」と名がついています。形も独特なら名前も独特すぎますよね。この釣り糸に見立てられた細長い付属体は何のためのものなのか、今のところはっきりしていないそうです。筆者がしばらく観察していて気づいたのは、この「釣り糸」はびろーんと伸びてその先端が地面や藪の草などどこかにふれていること。。そしてこれを、地面を這うワラジムシ、蜘蛛、蟻などの虫が伝い歩きに使っているのです。特に蟻はたくさん見かけました。そこでこう考えました。ウラシマソウは、同じテンナンショウ属で同じような環境に生息するマムシグサと比べて草丈が低く、花の位置も下にあります。すると、花粉を媒介する空中を飛ぶキノコバエのほとんどはマムシグサのほうへと行ってしまいます。そして雌花の中で出られなくなり死んでしまうのです。つまり生存競争で圧倒的不利なウラシマソウは、釣り糸で地面にいて同じようにキノコを食用とし、栽培すらしている蟻を花に導きいれているのではないか。こうすれば、雄花の下部の隙間からはいられて、花序の上部に到達できない、という無駄なことがなくなり、蟻たちは釣り糸を伝い上から正しく入り、下まで導かれていけますよね。
ただ、「釣り糸」が出たテンナンショウは他にもあります。マイヅルテンナンショウです。でも、マイヅルテンナンショウの釣り糸は空に向けてのび、空中に浮いています。マイヅルテンナンショウは草丈が高く、また好んで生える場所も他のテンナンショウと比べると比較的明るい場所。これは空中を飛ぶ昆虫を導きいれるためのアドバルーンとかのぼりのような役割なのではないでしょうか。釣り糸付属体の向きが、それぞれの植物の戦略を対照的にあらわしているのではないでしょうか。
マムシグサもウラシマソウも、こうして受粉した雌花は、秋のはじめごろ、葉や仏炎苞が枯れ落ちた後に花序がふくらみ、トウモロコシがつったったような形で実がなります。最初は緑ですが、熟すと濃い朱色となり、これがぶつぶつと固まりになって実った姿もなかなか気味悪く、花の時期だけではなくこの実も子供たちには恐怖の対象だったようです。でもおいしそうに見えないこともなく、かつてはこの実を食べて中毒になる事件もときどきあったとか。そう、実も毒があるので見かけても決して口にしないようにしましょう。

茨城県の筑西市では、最近は「浦島草祭り」というイベントを開き、ウラシマソウの群生を観光利用する動きがあったり、またその花や葉の形の面白さから寄せ植えや生け花の素材として注目されたりと、近年は徐々に注目が集まりつつあるテンナンショウの仲間。人気となってエビネやシュンラン、カタクリなどと同様に掘りつくされてしまう日が来るのかもしれません。この植物のファンとして、そんなことはなってほしくないなあ、と思っています。野の花は、自然の中で楽しみたいものです。

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