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レース漫画と聞くと、皆さんはどの作品を思い浮かべるでしょうか。『サーキットの鬼』『頭文字D』など、数多くの名作が存在するので迷ってしまうかもしれませんね。そんな名作揃いのレース漫画の中でも、特に多くの支持を集める作品として『F』『ダッシュ勝平』などが挙げられるでしょう。
両作ともレース漫画の鬼才として知られる六田登先生によって世に送り出された名作です。
自身も大のクルマ好きバイク好きとして知られる六田先生の作品は、その緻密な心情描写や迫力あるレース展開などから、極めて高い評価を受けています。
今回ご紹介したいと思うのは、その完成度の高さにも関わらず、六田先生の作品の中ではやや知名度が低いとされる作品です。そのタイトルは『頼むから静かにしてくれ』というもの。
村上春樹先生の名訳で知られるレイモンド・カーヴァーの作品集と同名タイトルとなりますが、こちらの"六田版"も負けず劣らずの快作です。
主人公は保険外交員と日本GPライダーの二足の草鞋を履く城戸スズカ21才。この物語は彼女が事故で早逝した天才ライダーオサムのヘルメットを偶然手にするところから始まります。
(『頼むから静かにしてくれ』1巻より引用)
オサムはあらゆる人から尊敬を集めた天才ライダーでした。
スズカもその例外ではなく、まさに人生を賭けてオサムの背中を追っていたと言っても良いでしょう。それだけに、彼の死によるスズカの悲しみは深く、レースをやめてしまおうと考えるほど。そんな時、彼女は事故現場に放置されていた傷だらけのヘルメットを拾います。
スズカはオサムへの追悼の為、そしてレースへの未練を断ち切る為、拾ったヘルメットを身に付けて「最後」と位置づけたレースに臨みます。
所詮自分は俗物であり、オサムの世界には到達し得ないのだと諦めの境地で走り出したスズカ。その走りは凡庸そのもので勇気の欠片もありません。
(『頼むから静かにしてくれ』1巻より引用)
その時です。ヘルメット越しに「ブレーキをギリギリ遅らせろ」と不思議な声が聞こえます。それは、確かにあのオサムの声でした。
戸惑いながらもその声に従ってしまったスズカは大事故寸前の転倒リタイア。
(『頼むから静かにしてくれ』1巻より引用)
散々な目に遭ったものの、その声がオサムのものであるとの確信が深まるにつれ、スズカの中に「天才が見ていた世界」を自分も知りたいとの思いが芽生えます。
そしてスズカは天才のみが到達し得た人智未踏の領域へと足を踏み入れていくことになります。
この「天才が見ていた世界」の描写はこの漫画の白眉と言っても良いでしょう。時間が止まり、自分だけが動いているような感覚…。
この言葉では表現することが難しい特別な感覚を六田先生は見事な表現力で描き切っています。"走る"とはまさにこういう感覚なのだと読者は得心するでしょう。
読者はスズカと共に天才の世界を知ることになるのです。
(『頼むから静かにしてくれ』1巻より引用)
覚醒、進化、成長…そんな言葉では片づけられないほどの変貌ぶりを遂げることになるスズカ。そんな彼女を周囲が放っておくわけがなく、その人生は大きな転換点を迎えることになります。
それは、多くの問題や、更には自らを導くはずの声にも振り回される苦難の日々の始まりともなりました。
しかし、それらと向き合いながら、やがて彼女は極限の世界を走破していくことになるのです。
(『頼むから静かにしてくれ』1巻より引用)
自らを俗物と自虐する凡庸な女性ライダーが不思議な声によって究極世界へと導かれる…。
そんな怒涛の興奮体験を提供してくれるこの快作、超おススメです。