ところで筆者はあるとき植え込みの陰などで群がっているナメクジを見ていて、あれっ、何か昔見てたのと違う、と気がつきました。幼少時代によく見かけていた昔のナメクジは体をのばして這う姿がもっとすらっとしていて、色もねずみ色に近かった記憶があるのですが、最近見かけるナメクジは背中にこぶのような盛り上がりがあり、ちょっとずんぐりしている。色もねずみ色よりも茶褐色が強い気がしたのです。こんなこぶみたいなのあったかなあ?とこぶを触ってみるとちょっと硬い。そのこぶのように見える部分が爪かセロテープのような薄くて透明な甲羅状になっていて、そのため盛り上がって見えたのです。ナメクジってこんなだったかなあと調べてみると、何と戦後1950年代くらいに、アメリカの占領軍の荷などとともに、外来種でヨーロッパのイベリア半島原産と推定されるチャコウラナメクジ(茶甲羅蛞蝓Lehmannia valentiana)が入ってきて徐々に生息域を広げ、日本の代表的な在来種であるフタスジナメクジ(Meghimatium bilineatum )は徐々に生息域や数を減らし、チャコウラナメクジに取って代わられつつあるんだとか。多湿な日本の風土に適応してきたフタスジナメクジですが、近年田んぼが減り都市化が進み、以前よりも乾燥化してきているため、より乾燥した環境で育ったチャコウラナメクジに有利になりつつあるためのようです。チャコウラナメクジの勢力拡大は、明治時代のやってきて繁殖していた同じ外来種の先輩格キイロコウラナメクジ(Limax flavus Linnaeus・体色が黄色いわけではなく、甲羅の中側に黄色の内臓が透けて見えるため)を駆逐し、国内からほぼ絶滅させてしまったようです。
ナメクジの世界にもやはり勢力争いがあるんですね。
そして近年、また新たに新顔の外来種が日本列島で繁殖をはじめていると噂されています。その名もマダラコウラナメクジ。最大で20センチにもなるといわれる大型のナメクジで、全身に黒いマダラの豹紋があるグロテスクな外形をしています。2006年に茨城県ではじめて発見され、それ以降福島、長野、北海道など距離の離れた4道県で確認されたため、生息域が全国に拡大しつつあると推測されています。京都大学理学研究科助教の宇高寛子氏は「ナメクジ捜査網」なるプロジェクトを発足。外来種生物が日本に適応していくプロセスをリアルタイムで観察する貴重なチャンスとして、「ヒョウ柄で大きいナメクジを見つけたら一報を」と呼び掛けているそうです。さがしてみてはいかがでしょう。
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巨大ナメクジ目撃情報、ツイッターで募る 京大助教が「捜査網」京都新聞 )
ただし、ナメクジにはこの種に限らず朽ち葉や野菜などを食べた際に広東住血線虫の中間宿主となっている場合があります。触れた場合にはよく手洗いをしましょう。