紅葉前線が日に日に山地から平地へと降りてくる頃、山野では山菜の王様ともいわれる自然薯の季節を迎えます。自然薯(Dioscorea japonica)は世界中に600種ほどもあるといわれるヤマノイモ科ヤマノイモ属の一種で、全国に分布する日本原産種。古くから食用、薬用として使われてきました。長さは60cm~1m以上。寒冷で湿気が適度にある環境を好みます。土が熱くなるとそれを避けて地下茎を伸ばすため、地下でぐねぐねとうねって成長し、そのため天然ものは非常に粘りが強く、味も抜群ですが、収穫に手間がかかります。長く地下茎を伸ばすその姿と滋養強壮から「山うなぎ」といわれるほど。江戸時代には自然薯のことを「薯蕷」と表記してヤマノイモ、ヤマイモと称していました。
ところで「ヤマイモ」といえばすりおろしてとろろにすることが多いため、別名「とろろ芋」とも呼ばれ、スーパーに行くとさまざまな名称と形の「とろろ芋」が売られていますよね。大和イモ、長イモ、銀杏イモ……皆さんはそれらの違いがわかりますか? 一体どれがどれでどんな特徴があるのか、よくわからないのでは? 実はそれは当然で、なかなか難物でこみいっているのです。まずは整理してみましょう。
山芋は大別して①ジネンジョ、②ダイジョ、③ツクネイモ、④イチョウイモ、⑤ナガイモ、の5種類に分かれます。
①ジネンジョは先述した自然薯ですね。ちょっと値段が高級なので時に贈答用に箱入りになって売られたりもしています。
②ダイジョ(大薯)は沖縄や鹿児島、台湾などの南方産のサツマイモに似た形をしたヤマイモで、中身が紫色をしているのが特徴。
③ツクネイモ(捏芋)は関西でよく出回る品種で、ゴツゴツとした大きなジャガイモか里芋のような形をしています。粘り気が強く、食味も濃厚。もともと奈良に多く見られたことから関西ではこれを大和芋(やまといも)と呼びます。黒い皮の加賀丸芋、丹波山の芋、白い皮の伊勢芋などの種類があります。
④イチョウイモ(銀杏芋)は、別名仏掌芋(ぶっしょういも)ともいいます。 扁平で、イチョウの葉、または武骨な手のような形をしているためこれらの名があります。そして、関東ではこのイチョウイモが「大和芋」の呼び名で流通していることが多いのです。関東と関西では、ヤマトイモというと種類が違い、関東では④を、関西では③をヤマトイモと呼ぶわけです。なめらかで粘りが強く、とろろに最適です。ちなみに③のツクネイモのことは関東などでは「山の芋」という名で呼ぶこともあるのでややこしいですね。
⑤ナガイモは、現在最も流通量の多い山芋で、栽培される山芋の約2/3がこのナガイモ。生産地は青森と北海道の二道県で大半を占めています。水分が多く、比較的粘りが少ないため、とろろにするとさらっとしているので、単体よりは刺身の山かけやあえものに向きます。形もまっすぐで比較的扱いやすいので、サクサクとした歯ざわりを生かして酢の物や煮物や、サラダなどにもされますね。ちなみに、ナガイモ(D. opposita)のことを現代ではショヨ(薯蕷)とも言い、本来の江戸時代以前の薯蕷=ジネンジョとはまったく違うのに、細長い外見が似ているために混同されてしまう、というここにもややこしい事態が。
この五種類のうち、③④⑤は中国から伝わったもの。
②のダイジョは東南アジア原産でヤムイモ(Dioscorea 属の食用種)の1種。
①のみが日本原産のヤマイモです。
こうして整理してみても、まだ混乱してきますね。できれば名称をきちんと統一してシンプルにし、味のちがいや種類の違いを一目瞭然にわかりやすくしてほしいものですが……。
関東でヤマトイモと言えばこれ