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Utsuke Bron

七十二候<霎時施〜こさめ ときどきふる〜>ひと雨ごとに 心しぐれて 秋は逝く

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七十二候<霎時施〜こさめ ときどきふる〜>ひと雨ごとに 心しぐれて 秋は逝く

ふいに泣きたくなったのです

ふいに泣きたくなったのです

ポタ! ポタ!と、滴(しずく)のようにあちこちで着地する、どんぐりや銀杏。ざざざざざ〜と、シャワーの水音を鳴らすような木の葉。秋は、雨のふりしていろんなものが降ってきます。「霎(こさめ)」は「しぐれ」とも読むのです。冬の季語・しぐれ(時雨)は、じつは冬だけでなく四季折々に降る通り雨。ふいに泣きそうになる気持ちを『時雨心地』というそうです。降るたびに冬が近づいてくる、そんな秋時雨が人を寂しくさせるころ・・・

小雨ではなく、通り雨。女心ではなく、男心?

激しさは通り過ぎてゆき・・・

激しさは通り過ぎてゆき・・・

『時雨(しぐれ)』とは、降ったかと思うと晴れ、また降りだし、短時間で目まぐるしく変わる雨のこと。「過ぐる」が語源ともいわれています。「霎(こさめ)」といってもいわゆる小雨ではなく、さーっと降って止む雨なのですね。一般的には冬の雨とされていますが、春や秋にも降り、季節特有の想いを人に抱かせます。

秋は低気圧と高気圧が日本の上空を行き交い、天候が変わりやすい時期。不安定な空模様に影響されてデリケートな女性の心は、笑っていたかと思うと急に涙もろくなったりと、くるくる変化してしまいます。それを「女心と秋の空」といったりしますね。

ところが、この諺はもともと「男心と秋の空」だったのをご存じでしょうか。
昔は、心が移ろいやすいのはもっぱら男性のほう・・・それも、女性に対する恋愛感情が変わりやすいという意味だったようです。 室町時代の狂言『墨塗』には「男心と秋の空は一夜にして七度変わる」というセリフがあり、この諺ができた当時(江戸時代)も、既婚男性の浮気はわりと寛容に扱われていた様子。それをいいことに、移り気で女を泣かす夫たちが多かったらしいです。女性にとっては「もう秋の空みたいなもんだから、しょうがないわね」と諦めたり、「今はいいけど信用できないかも?」と用心したりするための諺でもあったのですね。
現在ほとんど耳にしないのは、恋愛事情がすっかり変わって男性に甘くない世の中になっているから? 

命とひきかえに! 神のみぞ知る名歌とは?

今の雨音は、風が鳴らしたのですか?

今の雨音は、風が鳴らしたのですか?

『時雨(しぐれ)』の定めなさ・儚さは、古くから多くの歌や句に詠まれてきました。
ことに和歌は昔の人にとって大きな力をもつ三十一文字(みそひともじ)。心離れた夫が戻ってきたり、殺されそうになるのを救われたりと人心を左右するばかりか、歌の功徳で病気が治ったり、すてきな歌を詠んだために神様に気に入られ召されてしまうなど、天界にも通じる影響力さえあったようです。

和歌を熱く志すあまり「あと5年の命とひきかえに秀歌を一首詠ませてください!」と住吉大社(和歌の神様)に祈願した源頼実さんの逸話が、『袋草紙』などに記されています。後に重い病気になり癒しを求めて参拝すると、なんと侍女に憑依した住吉の神から「おまえはすでにあの秀歌を詠んだではないか。だから延命はない」というお告げが!
その言葉通り、頼実さんはそのまま30年の短い生涯を閉じ、その歌は名歌として後世に伝えられたのでした。

神様に言われるまで、そんなにすごいと(本人含め)誰も気づかなかったなんて・・・それはいったいどんな和歌なのでしょうか。 

しぐれは別れの予感。定めなく落ちる涙

冬の報せがまた降ってきました

冬の報せがまた降ってきました

木の葉ちる 宿は聞き分く ことぞなき 時雨する夜も 時雨せぬ夜も  / 源頼実

「木の葉が散る家では聞き分けることもできないことだ。時雨が降る夜とも、降らない夜とも」。
それは、ただ降りしきる落ち葉の歌だったのです。時雨(しぐれ)は、しきりに降るようなものや 定めなく現れて消えるものの呼び名にも使われます。木の葉が盛んに散るさまや音は、時雨にたとえて『木の葉時雨(このはしぐれ)』と呼ばれました。

降ってくる葉の音を聞きながら、おそらく頼実さんは「いまこそ命と引き換えの歌を!」などとは思いもしないで「雨と聞き分けられないなあ」というつぶやきの歌を詠んだのではと想像します。芸術の神様は、人の思いをはるかに超えた無心にこそ宿るのかもしれません。 
そして雲も行ったり来たり

そして雲も行ったり来たり

『木の葉時雨』と名付けた昔の人は、定めなく移ろう命の激しさ・儚さを、逝く秋の落ち葉に見たのでしょうか。夏の終わりに命を閉じる虫の声を『蝉時雨』と呼んだときのように。
やがて来る別れの予感の哀しさが、通り過ぎる今のかけがえなさを教えてくれる・・・心しぐれる、秋の雨です。

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