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Utsuke Bron

「鍋もの指数」をご存知ですか?俳句でも鍋を味わう季節です

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「鍋もの指数」をご存知ですか?俳句でも鍋を味わう季節です

鋤焼は、牛鍋ともいいます

鋤焼は、牛鍋ともいいます

朝晩が冷え込む日も多くなりました。そろそろおでんや寄せ鍋が恋しい季節ですね。ところで、日本気象協会独自の「鍋もの指数」をご存知ですか?気温と風速から算出した体感温度と、湿度などの気象データを組み合わせて算出する指数です。人は気温が低く空気が乾燥するほど鍋料理を食べたくなるそうですが、なるほど納得ですね。俳句の世界でも、おでんやすき焼きなど、鍋料理は冬の季語。間もなく立冬、鍋ものの俳句を味わって、早めにお鍋の準備にかかりましょう。

鍋もの指数、北から上昇中

このところの冷え込みで、北海道・東北のみならず、本州でも日本列島の鍋もの指数が上昇しています。市販の鍋スープの素もバリエーションが増えていますが、多様な鍋つゆのみならず、季語にもたくさんの鍋ものがあります。すべて冬の季語ですが、間もなくの立冬を過ぎれば、俳句は冬の世界を迎えます。冬支度がてら、歳時記を紐解いてみましょう。

鮟鱇(あんこう)鍋、寄せ鍋、牡丹鍋(猪鍋)、おでん、鋤焼(すきやき)、闇鍋などは、明らかな鍋もの。粕汁、干菜(ほしな)汁、葱を具にした根深汁、蕪汁、納豆汁、「とろみ」のあるのっぺい汁、狸汁、江戸時代には中毒を起こすことが多かったという河豚(ふぐ)汁。冬に身が温まる鍋・汁もの料理の季語が、次々に並びます。それだけ昔の人々が、冬の食を楽しみつつ一句ひねることを親しんだ証なのでしょう。何故か「鍋」「鍋もの」という言葉は、季語になっていないようです。 

牛鍋に箸ふれ合ひてより親し

牡丹鍋・猪鍋

牡丹鍋・猪鍋

ではまず、ご馳走の代名詞、鋤焼(すきやき)の俳句をあげてみましょう。牛鍋ともいいます。ローカル色が良い味を出していますので、引用書籍ごとにご紹介していきます。

『北海道・東北ふるさと大歳時記 』角川書店(1992/6)より

・鋤焼や笹も日高の熊の肉           木津柳芽
・牛鍋や紅藍花(べにばな)染めの裾捌き   安保弘子(山形県 銀山温泉)

紅花染めの着物は、山形で有名な美しい草木染の着物ですね。

『甲信・東海ふるさと大歳時記』角川書店 (1993/11)より

・牛鍋に箸ふれ合ひてより親し         石黒澄江子
・牛鍋や俳聖しのぶ水鶏(くいな)庵      武田ちよ    (愛知県 佐屋町 水鶏塚)

「水鶏庵」の名は、松尾芭蕉最後の行脚の際の句、「水鶏鳴と人の云えばや佐屋泊」からの銘の様子。水鶏塚には、この句の碑が建てられています。 

杉山の墨絵ぼかしに牡丹鍋

鮟鱇鍋

鮟鱇鍋

牡丹鍋は、猪肉の鍋料理で、猪(しし)鍋ともいいます。「牡丹に唐獅子」の「獅子」に置き換えて牡丹鍋、洒落ていますね。

『第三版 俳句歳時記 冬の部』角川書店 (1996/10)より

・大根が一番うまし牡丹鍋          右城暮石
・猪鍋の大山詣くづれかな          石田勝彦
・夜の湖(うみ)のたちまち靄に牡丹鍋   斎藤梅子
・杉山の墨絵ぼかしに牡丹鍋        木内彰志
・猪鍋に酒は丹波の小鼓ぞ          宮下翠舟
・猪鍋やまだをさまらぬ山の風        落合典子

猪の肉を食するシーンには、やはり都会よりも山の奥深い、しんとした空気感が似合います。 

ほかの部屋大いに笑ふ鮟鱇鍋

通年の国民食、おでん

通年の国民食、おでん

鮟鱇鍋は、鮟鱇の身・肝などに焼き豆腐・シイタケなどを加え、だしで煮た料理。鮟鱇鍋になりますと、猪鍋よりは街中のイメージになり、人間関係の襞が見え隠れする句が多くなります。

『第三版 俳句歳時記 冬の部』角川書店 (1996/10)より

・ほかの部屋大いに笑ふ鮟鱇鍋       深川正一郎
・鮟鱇鍋酔の壮語を楯として         小林康治
・ひとりごちひとり荒べる鮟鱇鍋       森澄雄
・鮟鱇鍋戸の開けたてに風入りぬ      舘岡沙緻
・沖の灯と見えて星出づ鮟鱇鍋       中 拓夫 

俄か寒おでん煮えつつゆるびけり

たしかに急に冷え込むと、「今日はおでんにしようか」気分ですね。コンビニエンスストアの主力品目となったおでんはもはや、通年メニュー。俳句でも、最も敷居の低い鍋ものとして、ほのぼのと庶民の日常が描かれます。

『第三版 俳句歳時記 冬の部』角川書店 (1996/10)より

・俄か寒おでん煮えつつゆるびけり       水原秋櫻子
・おでん煮てそのほかの家事何もせず     山崎房子
・夫(つま)あらば子あらばこそおでん種    角川照子
・おでんやのうしろに夜の波止場あり      鮫島春潮子
・おでん酒貧乏ゆすりやめ給へ         倉橋羊村

そして、おでんが大好物だったのが高浜虚子。

『高浜虚子句集』Kindle版 久栄堂書店(2014/12) より

・戸の隙におでんの湯気の曲り消え
・振り向かず返事もせずにおでん食ふ
・志(こころざし)俳諧にありおでん食ふ

最後の句は、84歳の最晩年に詠まれました。客観写生・花鳥諷詠を貫いた虚子が、おでんというカジュアルなモチーフに思いを込めた風合いに、余韻が残ります。

たくさんの鍋もの俳句からほんの一部をご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。ぐっと俳句を身近に感じますね。今晩は風邪などひかぬよう鍋もので身体を温めて、一句ひねる風流な一夜としましょうか。 

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