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雨空にすっくと立つ名花・タチアオイは癒しと希望の魔法薬!

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雨空にすっくと立つ名花・タチアオイは癒しと希望の魔法薬!

梅雨の花というと皆さんは何を思い浮かべますか。アジサイ、花菖蒲、ハスに睡蓮、ホタルブクロ・・・でも、近年忘れられがちですが長く日本人に愛されてきた梅雨の花といえば「タチアオイ」。どっしりとした株から、2メートル以上にもなる花茎が伸び、下から順番にハイビスカスに似た花を咲かせます。最初の花は入梅とともに、そしててっぺんに最後の花が咲く頃が梅雨明けといわれる、まるで梅雨暦のような花。古くから西洋では治療薬として珍重され、魔法のような手法で処方されてきました。 

「あふひ」は再び会うまでの遠い約束? ネアンデルタール人も愛したタチアオイの花

美しい立ち姿に未来や希望が感じられます

美しい立ち姿に未来や希望が感じられます

タチアオイ(立葵、Hollyhock)は、アオイ科の多年草。原産地はヨーロッパの地中海沿岸から中近東、そこから東アジアに伝播して、日本には中国から薬用植物として持ち込まれたのが栽培の始まり。中国では「蜀葵(しょくき)」の名で知られ、漢方薬の蜀葵根(しょっきこん)として胃腸薬や利尿剤として用いられましたが、日本では主に観賞用として、華やかな色の園芸品種が盛んに造られるようになり、長くめでられてきました。赤やピンク、白の大きな元気のいい花を縦列に咲かせていく姿は、梅雨時のどんよりした空気に華やぎを与えてくれます。
のどかな田舎の沿道や農家の垣根、町家の軒下などに隊列のように咲いている姿を以前はよく見かけ、印象深い風景だったのですが、どうも最近以前ほど人気がないのでしょうか。あまり見かけなくなり寂しく感じます。
花のついた茎は人の背丈以上になり、日差しを求めるようにぐんぐん上に伸びるその姿から「仰日」(あふひ)と呼ばれ、それがアオイに転じました。「あふひ(葵)」を「会う日」に掛けて万葉集にはこんな歌が。

梨 棗(なつめ) 黍(きみ)に 粟(あは)嗣(つ)ぎ 延(は)ふ 田葛(くず)の
後も逢はむと 葵花(あふひはな)咲く (巻16-3834 作者未詳)

果物や作物が実る季節になるのに恋人に会えない。いつか会う日を思ってのように葵の花が咲いている、といった意味でしょうか。

何と五万年前のイラクのシャニダール洞窟の中、ネアンデルタール人の埋葬地にも、人骨と共に赤いタチアオイが発見され、死者を悼む葬送にこの花が用いられたらしい、と考えられています。ネアンデルタール人を「人類」というのかどうかというと諸説あるかと思いますが、空に伸びて次々と咲いていくその姿が、古くから未来や希望を感じさせ、心の痛みを癒してきたのではないでしょうか。 

西洋では治療薬の代表、そしてあの甘いお菓子の原材料に

ウスベニタチアオイ(マシュマロウ)

ウスベニタチアオイ(マシュマロウ)

一方西洋では、タチアオイは古代から薬として利用されてきた最古のハーブ。
学名をalthaea roseaといい、roseaは野薔薇のような花の姿を指し、althaea(アルテア)はギリシャ語の「治療」を意味するalthainoが語源。学名に治療の意があるほど薬効は高く、咳止めや傷や炎症、潰瘍の治療、利尿・整腸薬として用いられてきました。

西洋のタチアオイの代表種であるウスベニタチアオイ(Althaea officinalis)は、華やかで浴衣の柄のような日本のタチアオイと比べて、簡素な五弁の花びらは白く、中央部がうっすらと桃色に色づき、桜の花のようにおとなしめの儚い印象を与えます。
ローマ時代・一世紀の博物学者で『博物誌』を著したことで有名な大プリニウス、ガイウス・プリニウス・セクンドゥス(Gaius Plinius Secundus)はその『博物誌』の中でウスベニタチアオイを記載(第20巻14節 XIV. Marsh mallow)し、「野生のタチアオイや、プレイストロケイア(πλειστολοχεία)と呼ぶ人もいるウスべニタチアオイは潰瘍や軟骨・骨の損傷の治療薬」で、葉を水に漬けたものを飲むと便通にも効き、またその葉はヘビ・サソリなどの毒虫を追い払い、ハチの刺し傷を治す塗り薬としても効用がある、と記しています。そして、根を黄金製のシャベルで夜明け前に掘りだし、雌の子供を生んだ雌ヒツジの生成りの羊毛で包んで瘰癧(るいれき)のある部位に貼り付けておくと腫れ物を癒す効果がある、と、ちょっと魔法のような使用法を説明しています。古い文献には、その葉を腰の下に敷いて分娩すると安産ですむとか、種子は媚薬として効果があるとか、少々怪しい使用法もあることから、魔法薬の一種でもあったのでしょう。
現在でも、花や柔らかい若葉は、疲労回復や美肌、利尿効果、二日酔いやむくみの回復にも効果的で、ハーブティーとして愛用されています。
ちなみにこのウスベニタチアオイは英語でMarshmallow(マーシュマロウ)といいますが、これはお菓子のマシュマロ(Marshmallow)と同じです。根に含まれる多糖類から粘液を抽出できることから、古代エジプトでこの植物の根の抽出物にナツメヤシの実で風味をつけ咽の痛みを和らげる薬としてもちいていました。これに後に卵白や砂糖を加え、攪拌して作られたのがあのマシュマロのはじまり。現在ではウスベニタチアオイの根ではなくゼラチンを用いますが、和菓子の蕨餅やクズ餅と同様、かつて使われていた材料の名がそのまま残っているというわけですね。 

葵のホックの掛け違い? ホーリーホックとフタバアオイ

葵の御紋はフタバアオイ

葵の御紋はフタバアオイ

ところでタチアオイというと、Jリーグに「水戸ホーリーホック」というクラブがありますが、このホーリーホック(holly hock)は、ずばりタチアオイのこと。12世紀頃の十字軍がシリアからこの花を持ち帰り、キリスト教徒の聖地パレスチナの花として「聖地の花」の意でholly hockと名づけたのだといわれています。
でもちょっと待ってください。水戸というと思い浮かぶのは、徳川御三家、天下の副将軍・水戸黄門。水戸ホーリーホックのホームページの案内を見ても、『ホーリーホックは英語で「葵(あおい)」の意味で徳川御三家の水戸藩の家紋である葵から引用した。』とありますから、助さん格さんがジャジャーンと突き出す印籠に記された徳川家のマーク「葵の御紋」を想定していることは明らかです。でも、徳川家の家紋や、京都下賀茂神社の神紋として使用され「葵祭り」のシンボルになっているのは、アオイはアオイでも「フタバアオイ」というまったく違う種類(ウマノスズクサ科Asarum caulescens)の植物のハート型の葉をデザインしたもの。花も風鈴のような独特の小さな花で、タチアオイとは似ても似つかぬものです。
こうした誤用は実はよくあることなのですが、エンブレムもフタバアオイを取り入れたデザインにしてこうも堂々と「ホーリーホック!」と名乗ってしまうのは、大丈夫なのかなといらぬかもしれない心配をしてしまいます。
誤用でさえなければホーリーホックって名前は響きもよくいいクラブ名ですよね。そこで災い転じて福となすというか瓢箪からコマ的な提案なのですが、近年どうも影が薄くなりがちなタチアオイを水戸の町や本拠地スタジアムの周囲にいっぱい植えて、同じ茨城のネモフィラのように、タチアオイの咲く新しい名所にする、というのはどうでしょうか。

福島中央テレビでは今年の六月、「タチアオイの咲く頃に~会津の結婚~」というドラマが放映されました。(http://www.fct.co.jp/drama_tachiaoi/first.html)たとえさえない空が続いてもすっくと空に伸び上がる希望や未来の象徴としてのタチアオイのイメージは、きっと今も健在なのですね。梅雨空の名花として、今後も愛されていってほしいものです。 

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