祈ってるように見えますか?
前脚の腿節から先の部分が太く変形してできた鎌を備えるカマキリ。英語名のMantisはギリシャ語のMantidaeに由来し、占い師、預言者、僧侶という意味です。両腕をあわせ折りたたむ姿勢と下半身をすっぽりと覆う長い翅が、長いローブを羽織り祈りを捧げる僧侶のように見える事から「Praying Mantis」(祈る僧侶、預言者)とも呼ばれます。古くからヨーロッパ南部では迷子の子供はカマキリが家の方向を指し示してくれるという言い伝えがあったり、イスラム教徒の人々はカマキリはいつもメッカの方向を向いて祈っていると考えていました。またアフリカでは、カーングという創造主がカマキリの姿で描かれました。
海外のカマキリには僧帽を思わせる長く上に伸びた突起のある種や、まるで法王のローブのように見える付属体が発達したニセハナマオウカマキリ(Idolomantis diabolica)という種もいたりして、信仰の対象としてあがめられていた、というのもうなづけます。
もちろん日本でも祈り虫とか拝み虫という呼び方もされ、上半身を起こし鎌をたたんだ姿に、やはり敬虔なものを感じていたようです。
しかし、いつの頃からかカマキリのイメージは悪役の代表選手に。
漫画や絵本、アニメなどにもキャラクター化されて登場するカマキリは、そのほとんどが憎まれ役・敵役で殺し屋だったり意地悪だったり。スズメバチと並んで昆虫界では不動の悪役ツートップ。
もちろん、先に脱皮して大きくなった者が小さい兄弟姉妹を食べてしまったりと共食いも平気な生まれながらの獰猛な肉食ぶり、成虫はときに自分より大きな生き物にも挑みかかり、獲物にしてしまう気の強さ、釣り目とぎざぎざの突いた大きな鎌形の前肢などは、どう見ても心優しさや正義の味方からは程遠いから仕方ないともいえますが・・・。
何より、カマキリといってすぐ思い浮かぶ有名な生態が、昆虫学者ファーブルが紹介した「メスは交尾をした後オスを食べてしまう」というもの。気が強く、夫を支配する恐ろしい妻のことを「カマキリ夫人」と呼んだりするように(元ネタは、「五月みどりのかまきり夫人の告白」という映画)。カマキリのイメージの転換は、ファーブルだったのかもしれません。