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立冬と鍋 ── 久保田万太郎と湯豆腐

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立冬と鍋 ── 久保田万太郎と湯豆腐

〈湯豆腐やいのちのはてのうすあかり〉 久保田万太郎

〈湯豆腐やいのちのはてのうすあかり〉 久保田万太郎

富士山をはじめ、北の山々からも「初冠雪」の便りが届き、平地で初雪が降った地域も……。
すでに立冬は過ぎましたが、立冬は「鍋の日」でもあるそうです。朝晩の冷え込みがきつくなり、そろそろ鍋物が恋しいな、と思っている人も多いのではないでしょうか。
そして昨日11月7日は、久保田万太郎の生まれた日。久保田万太郎は、大正から昭和にかけて活躍した俳人、小説家、劇作家ですが、氏の誕生日にちなみ、文人俳句の代表作家・久保田万太郎についてご紹介しましょう。

小説の代表作は「末枯」

草花が枯れ始めることを表す「末枯」

草花が枯れ始めることを表す「末枯」

久保田万太郎(1889-1963)は浅草の生まれ。生粋の江戸っ子として庶民の哀感や人情を題材にした戯曲、小説で知られています。
文学座の結成に参加し、新派や新劇などの演出も多く手がけました。文化勲章も受章しています。戦後は文壇のボス的な存在でもありました。

小説の代表作は「末枯」。
末枯は木々の枝先から、草が葉の先から枯れ始めることをいう言葉です。季語にもなっています。転じてものごとが次第に落ちぶれていくようすも意味します。
主人公の落語家は、五代目古今亭志ん生や六代目三遊亭圓生、八代目林家正蔵らに多くの落語を教えたことでも知られる盲目の落語家・初代柳家小せんがモデル。
話は、落ちぶれた盲目の落語家が、ふとあることがきっかけで人の借金の保証人になるという筋で、ドラマティックな物語はありません。
日常の些細な出来事や人物の感情の動きが、抑制のきいた筆致で描写されます。 

嘆かいの詩人

〈熱燗のまづ一杯をこころめる〉

〈熱燗のまづ一杯をこころめる〉

万太郎は、俳句を好み、戦後には俳誌『春燈』を主宰しています。
専門俳人ではありませんし、本人は「余技」であると語っていましたが、影響を受けたとされる芥川龍之介は、万太郎を「嘆かいの詩人」と呼びました。「嘆かい」は嘆き続けるという意味。

最も知られているのは可愛らしい、
〈竹馬やいろはにほへとちりぢりに〉でしょうか。
このほかにも
〈あきかぜのふきぬけゆくや人の中〉
〈懐手あたまを刈つて来たばかり〉
〈秋風やそのつもりもなくまた眠り〉
〈道づれの一人はぐれしとんぼかな〉
〈熱燗(あつかん)のまづ一杯をこころめる〉
〈また一つ誤植みつけぬみかん剥く〉

そして晩年の句として、
〈湯豆腐やいのちのはてのうすあかり〉があります。

友人・芥川や妻の自死という経験が影を落としているのかもしれません。
万太郎自身は俳句を「家常生活に根ざした叙情的な即興詩」と考えていました。とくに晩年の句は、孤独でどちらかというと哀しい心境の句が多いのですが、あるときにふいに納得されるような読後感があります。俳句でしか表現のしようのない、説明しようのない心の動きといったらいいでしょうか。
それにしても、語り尽くせないあれこれをたった17文字でつかまえてしまう、俳句とはまことに不思議な詩です。

── 今晩は熱燗で湯豆腐、でしょうか。

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