「次々と海から釣り上げられる魚がきらきらと光って、まるで銀色の刀のようだったんよ」
これは、昔語りに祖母から幼いころ聞いた太刀魚漁の話。(大正生まれの祖母が幼いころ見たこの光景は、祖母の父が小船で海に出たときのことらしかったのですが)一本釣りできらきらと白銀に光るこの魚が次々とあがるシーンが、近所の魚屋さんで見かけた太刀魚の長く平たい姿に重なり、今も鮮明な記憶として残っています。
関西より西の地方で主に親しまれてきた太刀魚は、蒸し暑い夏から秋まで脂がのってとても美味な魚です。そもそも亜熱帯・温帯の海の沖合いに生息する回遊魚で、南の海で越冬し、春から夏にかけて北上してくるのだとか。スーパーでは平たく四角い形となってパックされて売られていますが、体長は1.5mほどにもなるという、まさにその名の通り全身は、鞘をはらった日本刀のような姿。目はぎょろ目で鋭い歯を持ち、恐ろしい顔も特徴的です。
「カタナ」に似た姿から「太刀魚」になったという名の由来のほか、潮の流れが穏やかな場所、あるいは頭上のエサを待ち伏せするときに「立ち泳ぎ」することから、「タチウオ」と呼ばれるようになったという説も。立ち泳ぎしながら餌に食いつき、勢い良く釣り上げられた瞬間は、まさに祖母の話のままにカタナが海中から飛び出すように見えることでしょう。
欧米でも刃をもつ剣に似た姿から「カットラスフィッシュ」「サーベルフィッシュ」と呼ばれたり、細くひも状になった尻尾の形から、「ヘア・テール(尻尾のようにまとめたヘアスタイル)」の名でも呼ばれてたりしているそうです。
ちなみに、孵化したばかりの稚魚は逆立ち泳ぎをするそうで、恐ろしい顔つきに相反して、愛嬌ある生態が興味深い魚です。