残暑の熱気にまだまだ蝉たちが鳴きしきるころではありますが、日が沈む時刻には、小さな虫たちが奏でる澄んだ声に、すっと涼しい秋を感じます。
松虫、鈴虫、クツワムシ、はたおりきりぎりす、邯鄲、鉦たたき、草ひばりなど、さまざまな名で呼ばれる虫たちの声を聞く「虫聞き」へでかけるのも、いにしえより続く晩夏の風物詩。花見や月見に並び、江戸時代には盛んに行われていたようです。
風流な人々は豊かな自然が息づく野山に筵(むしろ)などを敷き、盃を交わしながら、さまざまな虫たちの声に耳を澄ませ、夜が明けるまで秋の音を愛でたのでしょうか。
そんな小さな虫の歌を愛したことで有名なのが、かの小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)です。「草ひばり」という小品に、
~いつも日が沈む時分になると彼の極めて小さな魂が目を覚ます。そうなると部屋中にえも言われぬ美しさを湛えた繊細で神秘な音楽が広がり始める。極端に小さな電鈴(ベル)の響きとでも言おうか、細く、かぼそく銀(しろがね)のすずしい音色で震え波立つ調べを響かせる。夕闇が深まるにつれてその音は美しさを増す。時折りその音は盛り上がって家全体が小さな不気味な共鳴で打ち震えるように思われるくらい~
と記した八雲。秋が深まっても死なないよう、ストーブまでつけてこの体長約7ミリメートルほどの小さな虫の声をこよなく愛玩した、八雲の思いが綴られています。
都心でも草むらがあれば、かすかに聞こえてくる虫の声。涼気に誘われそぞろ歩き、そっと暗闇に耳を澄ましてみてはいかがでしょうか。