〈のぼり坂のペダルを踏みつつ子は叫ぶ「まっすぐ?」、そうだ、どんどんのぼれ〉
俵万智さんはこの歌集で鮮烈なデビューを飾り、以後『かぜのてのひら』『チョコレート革命』などの歌集を出版しています。
最新歌集は『オレがマリオ』。
俵さんは早稲田大学在学中から短歌を始めていますが、その時の先生は歌人の佐佐木幸綱氏です。佐々木氏の歌は、
〈のぼり坂のペダルを踏みつつ子は叫ぶ「まっすぐ?」、そうだ、どんどんのぼれ〉
こうした歌を「口語短歌」と呼びます。
現代の短歌は、文語でも口語でも書かれます。佐々木氏は口語ばかりで書いているわけではありませんが、現代の語彙が自在に使われています。こんな歌もあります。
〈びしょ濡れのレインコートのままに佇(た)ちどの男どの男も一人〉
「口語」は話し言葉のことですが、話し言葉に基づいた書き言葉のことも含みます。
和歌・短歌は伝統的に「文語」(平安時代以降の古典語に基づいた書き言葉)で書かれてきましたが、明治時代になって、書き言葉と話し言葉は統一されるべきだ、という言文一致運動の流れの中で、口語短歌が提唱されるようになったのです。