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貴方は『細雪』の何処が好き?―弥生美術館から再発見する谷崎潤一郎―

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貴方は『細雪』の何処が好き?―弥生美術館から再発見する谷崎潤一郎―

弥生美術館

弥生美術館

東京都文京区の弥生美術館では、“耽美・華麗・悪魔主義 谷崎潤一郎文学の着物を見る ~アンティーク着物と挿絵の饗宴~”と銘打った展覧会が、6月26日まで開かれています。「谷崎をビジュアル的に紹介する展覧会」として、小説内の登場人物や、モデルとなった実在の人物が着ていた着物の再現コーディネートが展示されています。アンティーク着物が好きなかたには、必見のこの企画。2015年-2016年、没後50年、生誕130年のメモリアルイヤーは、改めて谷崎文学を読み直すにも、良い機会です。

弥生美術館は、どんな美術館?谷崎潤一郎の何を見せてくれるの?

弥生美術館

弥生美術館

弥生美術館は、弁護士・鹿野琢見が少年時代に感銘を受けた挿絵画家・高畠華宵のコレクションを公開すべく創設された、小さな美術館です。竹久夢二美術館と同じ建物内にあり、明治末から戦後の挿絵画家や出版美術をテーマとした、ユニークな企画展で愛されています。今回の展覧会でも、『細雪(ささめゆき)』をはじめ、『痴人の愛』『春琴抄』など、谷崎の代表作の挿絵やあらすじと共にヒロインの着物姿を可視化。谷崎の作品を読んだことの無い人でも、ビジュアル面から谷崎ワールドを体感できる仕掛けになっているのです。

谷崎潤一郎は、江戸っ子?それとも『細雪』の舞台、関西育ち?

改めて谷崎の人生(1886〜1965、明治19年〜昭和40年)を辿ると、日本橋生まれの谷崎に大きな作風の変化をもたらしたのは、1923(大正12)年の関東大震災による関西移住でした。生粋の江戸っ子として最初は関西になじめなかった谷崎ですが、次第に日本の古い伝統が残る神戸や大阪、京都の風土に魅了されていきます。

実際の恋愛経験が色濃く反映されているのが、谷崎の作品。私生活でもスキャンダラスな話題を提供し、当初は小説に毒婦や西洋風モダンガールを登場させ、作風は悪魔主義とも呼ばれました。しかし、関西の日々の中で、谷崎は次第に古典主義に向かいます。『蓼食う虫』では文楽など関西の伝統文化に惹かれていく心情、『陰翳礼讃』では闇と光という日本文化の美を述べ、続く『源氏物語』の口語訳ののち、ついに傑作『細雪』を発表します。

『細雪』は、戦前の船場の旧家・蒔岡家の四姉妹を描いた、谷崎の最大長編。三女の雪子の見合いが軸となっているものの、ストーリーは淡々と進みます。けれども当時の富裕階層の日々の生活や年中行事が細やかに、そして懐旧の念とともに、絢爛たる絵巻物風に綴られていきます。。物語の語り手・二女幸子のモデルは、谷崎の三番目の妻・松子。その姉妹たちをモデルとして描いたのが、『細雪』なのです。谷崎本人の立場となる幸子の夫・貞之助も、あれこれと妻と助け、姉妹たちの世話を焼いて活躍します。

『細雪』の楽しみ方はいろいろ

谷崎が松子や姉妹たちと暮らした神戸の住宅・倚松庵

谷崎が松子や姉妹たちと暮らした神戸の住宅・倚松庵

谷崎は、女性崇拝の人でした。妻となる松子へ、「私の芸術が後世まで残るものならば、それはあなた様というものを伝えるためです」という恋文も書いています。ロマンチックですね…しかし戦時下に発表が開始された『細雪』は、軍部から登場人物の華やかな生活が時局に合わないとして、掲載や出版が禁止されました。それでも自費出版を経てまで、書き継がれた物語でもあったのです。

何故か繰り返して読みたくなる『細雪』は、読む時期や年齢によって、さまざまな楽しみ方ができる文学です。壮大なる婚活風俗小説として読むことも、悠々たる上方文化の大河小説として味わうことも可能です。何度も映画化・舞台化されていますので、重ねて比較することも一興。そして作中の花見や蛍狩りなどの年中行事を真似て、展覧会のような着物スタイルでお出かけする「細雪ごっこ」は、女子なら一度は試したい。

『細雪』の優美で華やかな姉妹たちを読むことは、現代の女性にも、また殿方にとっても、めくるめく悦楽と言えるでしょう。そして姉妹たちを支える谷崎の分身?貞之助の振る舞いも、ダンディズムかくあるべし、のお手本として相応しいと思います。中央公論新社では、谷崎生誕130周年と創業130周年を記念して、たいへんお洒落な装丁の「決定版 谷崎潤一郎全集」が刊行されています。この機会に、改めて谷崎潤一郎を再発見してみてはいかがでしょうか。

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