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豊饒の海・有明海には怪魚、珍生物がいっぱい

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豊饒の海・有明海には怪魚、珍生物がいっぱい

「馬車は遠く光の中をかけ去り/わたしは一人岸辺に残る/既に海波は天の彼方に/最後の一滴までたぎり堕ち了り・・・」有明海沿岸の諫早出身の詩人・伊藤静雄は「有明海の思いで」の中で水平線まで一面の干潟となる有明海の風景をこう歌いました。「の」の字を描くような九州の地形の、最も内奥に位置する湾・有明海。この特殊な環境の海には、他では見られない不思議な生き物が数多く見られます。 

その生産力は瀬戸内海全域にも匹敵した?!「潟海」有明海のポテンシャル

さて、まず有明海とはどんな海なのでしょう。有明海は約1,700キロk㎡の広大な内湾。特徴は干満差5m以上とも言われる大きな潮位変化と、干潮の際にあらわれる広大な干潟。干潮時には場所により海岸線から5~7kmの沖合にまで干潟となって現出します。
「ここの干潟のもとは阿蘇山の火山灰さ。有明海の向こうは熊本。阿蘇の火山は今でも絶え間なく噴煙を上げて、大量の火山灰を有明海に流し、潮が干潟をここまで運んできよる。堆積された干潟はやがて海岸線より高くなり、高潮になって洪水を起こし、田畑を流してしまう。そいけんここの人たちは、いつも干拓をした。干潟がたまると干拓し、海を畑に変えた。(「親戚たち」矢上四郎の台詞より)
阿蘇山から降り注ぐ火山灰と、筑後川、住之江川、菊池川、本明川などの河川から流入する土砂とでたえず干潟の泥が堆積していき、場所によって1年に5cmの厚さも土粒子が堆積します。こうして年々成長する干潟の陸地側は、排水が困難となったり、高潮の被害にたびたびあったりするようになります。
このため、有明海では古くから干潟の干拓と、排水路の築造が行なわれました。最も古い干拓は推古天皇の頃(6世紀ごろ)ともいわれ、こうして長い期間の間に佐賀平野や筑後平野、諫早平野などを形成し、干拓された土地は穀倉地帯に生まれ変わっていきました。これまでに有明海では260k㎡を超える面積の干拓が行われています。

記憶している方も多いであろう、「ギロチン」と呼ばれた諫早湾の締め切り堤防も、こうした干拓・農地造成や高潮対策のために計画され実行されました。が、有明海の中でも最大の干潟であり、「泉水域」として有明海全体の呼吸に当たる潮流の調整や水質の浄化、生息生物の産卵場として機能していた諫早湾を締め切ってしまった直後から、懸念されていた佐賀・福岡熊本方面の大規模海苔養殖の色落ちや生育不良などの影響が出て、海苔業者からの堤防開門が提訴されています。もっとも、これらの不漁はノリ養殖で使われている殺菌剤(酸処理剤)が原因の海洋汚染だとする見方や、それらの複合的要因とする意見もあり、福岡、佐賀、長崎、熊本の4県の漁業者と、諫早干拓地の地権者との争いは未だに解決を見ていません。
いずれにしても、干潟は生物の揺り籠といわれ、干潟のある海は多くの生物を育みます。日本でもっとも大きな干潟の現出する有明海の生産力を物語るものとして、昭和50年の日本海洋学会において、青山恒雄博士は「有明海は魚介類の生産だけで22.6t/1k㎡ときわめて高く、瀬戸内海全域の漁業の最盛期の生産量とほぼ変わらない」と報告しています。もちろん当時よりは下がってしまっているでしょうが、大きな恵みをもたらす「宝の海」だといえます。 

不思議の海の生き物たちはかつて日本が大陸の一部だった太古の生き残り

ムツゴロウ

ムツゴロウ

有明海には、日本列島がユーラシア大陸から分離して島となった中新世(2,300万年前 - 530万年前)以来の残存種が多く、日本ではここでしか見られないもの、有明海固有種もいくつも生き残っています。
誰もが知る代表選手はムツゴロウ(ムツ、ムットウMud skipper/学名Boleophthalmus pectinirostris)でしょう。ハゼ科の水陸両生魚で最大20cm。朝鮮半島、中国沿岸、台湾にも分布していますが、国内では有明海と、南で接続している八代湾の一部でしか見られません。干潟では、小型のハゼに混じってひときわ大きなムツゴロウの姿を見ることが出来ます。鰓(エラ)と皮膚の両方で呼吸が出来るため干潟の上を這い回ることが出来ます。干潮時に干潟表面の珪藻類を削り取るように食べます。干潟表面に出るのは6~7月が最も多く、また5~7月の産卵期にはオスがメスへのデモンストレーションとして盛んに干潟をジャンプします。メスは巣穴の深さ20~30cmのところに横穴を掘ってその天井に1万個ほどの卵を産みつけ、1週間ほどで孵化するまで雄が卵の世話をする習性があります。食用としてもおいしいムツゴロウの一般的な食べ方は蒲焼。また、生きたまま串に刺して炭火で素焼きにするワイルドな食べ方も。この地域の人々は、暑いこの時期、盆魚として食べて夏ばて防止にしたようです。 
ムツゴロウと並ぶ有明海の珍魚が、見た目が「まるで映画のエイリアンのよう」といわれているワラスボ(スボ、ジンキチ/学名Taeniodes rubicundus)。ウナギのような長い体は内臓や血管が透けて見え、暗紫色でぬるぬるとしています。細かくとがった歯がむき出しになり、目は退化して凶悪な面構え。はあくまでもグロテスクである。右の腹鰭が合わさって吸盤状になっており、なんとムツゴロウやハゼクチ等と同じハゼの仲間。朝鮮半島、中国にも分布しますが、日本では有明海にしか見られません。
内臓を取ってうつぼのように干物にし、食べ易い大きさに切って揚げたり、あぶったりして食べます。ちょっと勇気が要りますが、実は刺身も美味だとか。

ミドリシャミセンガイ(Lingula anatina)は貝とは名がついていますが、全く異なる触手動物腕足類。数億年前からその姿のまま生存している地球上で最も古い「生きている化石」です。メカジャ(女冠者)とも呼ばれます。かつては海面をザルですくうと取れるほど沢山取れ、味噌汁のダシとして珍重されました。形が三味線に似ていて、美しい緑色をした付け爪のような二枚の殻を三味線の胴、殻から伸びた管状の部分(肉茎)を棹(サオ)に見立てています。
シャミセンガイの殻の成分は動物の骨の主成分である燐酸カルシウムと、エビの殻の主成分であるキチン質とが交じり合ったもの。国内で見られる生息地はほぼ有明海。
また同じ腕足類のオオシャミセンガイ(Lingula shantungensis)は、日本では有明海だけにしか見られません。ミドリシャミセンガイよりも一回り大きく、水深10m程度の砂泥質の海域に生息し、殻の色が茶色く、こちらは食用としません。

ヤマノカミは淡水カジカ類ヤマノカミ属(Trachidermus)の汽水・淡水魚で、国外では朝鮮半島南岸から中国南部まで分布していますが、日本では有明海湾奥部とその流入河川にのみ生息します。
日本に生息するヤマノカミは、近年行われている河川改修や河口堰の建設により個体数が減少したといわれ、環境省の「レッドデータブック」の危急種にランクされています。


アゲマキガイ(アゲマキ、チンタイガイ、ヘイタイガイJack knife clam/Sinonovacula constricta)は漢字では揚巻と書き、上代の日本人の耳の横で8の字に束ねられた髪型、花魁(おいらん)の髪型、鎧兜の結び目のことを「揚げ巻き」といい、この形に殻の形が似ていることから名がつけられました。やはり有明海と八代湾にしか生息していません。有明海の代表的な珍味の一つで、味噌汁も美味しいですが、バター焼き、塩焼きにすると独特の風味があり人気が高いため、養殖もされています。卵から孵化したての浮遊期には普通の二枚貝のような丸い形をしていますが、干潟に潜り始めると、急速に細長くなるのだとか。

他にも、エツ(Engraulid fish/Coilia nasus)、アリアケヒメシラウオ(Neosalanx reganius)やスミノエガキ(ヒラガキ、セッカ Crassostrea ariakensis)など、有明海固有種として知られ、中でもウミマイマイ(Amphibolidaeょは一属一種、しかも世にも珍しい海生の有肺類(カタツムリの仲間)という特異な生物。有明海の特異性を象徴する重要な生物として保護活動が叫ばれています。 
これらのほかの地域では見られない独特の生物の狩猟法として、有明海の干潟には独特の漁法がいくつも発達しました。その中心的役割を果たすのが「蹴板」(はねいた)または
「潟スキー」「すべり板」と呼ばれる、片ひざを乗せて片足で蹴って進むソリ。この蹴板に乗り、はるか沖まで滑ってゆき、そこでムツ(ムツゴロウ)カケ、ドウキン(ワラスボ)掻きなどで漁をしました。
またこの蹴板は子供たちの干潟遊びの道具にもなり、伊藤静雄はその詩の中で
夢みつつ 誘(いざな)はれつつ いかにしばしば少年等は 各自の小さい滑り板に乗り かの島を目指して すべりいつただらう(「有明海の思ひ出」伊藤静雄)
と歌っています。伊藤が歌った諫早湾の干潟は消失してしまいましたが、未だある佐賀などの干潟では、「ガタリンピック」という催しが行なわれ、大人も子供も干潟と戯れ興じます。干潟は渡り鳥たちにとっても大切な休息地。開発と保護、産業と自然破壊。とてもむずかしい問題をこの海は抱えていますが、海の生物を守ることは、まわりまわって人間の幸せともかかわってくるのではないでしょうか。

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