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宮沢賢治生誕120年。花巻市でたくさんの物語の舞台を

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宮沢賢治生誕120年。花巻市でたくさんの物語の舞台を

南十字星と星たち

南十字星と星たち

暑さ寒さも彼岸まで、風のつめたさも日に日に増してきましたね。風といえば、激しい秋風とともに訪れ、風とともに去っていった転校生を描いた『風の又三郎』を思い出します。その作者、そして誰もが一度は思いを馳せたことがあるはずの詩人・宮沢賢治は今年、生誕120年。ゆかりの地・花巻市では、誕生月の8月から来年の春まで、たくさんの催しが企画されています。その一部をご紹介しながら、独特の深遠な思想と世界観をもつ宮沢賢治の世界を、もう一度探ってみましょう。 


「自分と自然とが一体化している」宮沢賢治

北上山地

北上山地

まずは宮沢賢治の世界へ。『薤露青』という作品をご紹介します。「かいろせい」または解説者によっては「かいろブルー」と読みます。この色の名は、賢治の造語です。


薤露青    一九二四、七、一七

みをつくしの列をなつかしくうかべ
薤露青の聖らかな空明のなかを
たえずさびしく湧き鳴りながら
よもすがら南十字へながれる水よ
岸のまっくろなくるみばやしのなかでは
いま膨大なわかちがたい夜の呼吸から
銀の分子が析出される
……みをつくしの影はうつくしく水にうつり
プリオシンコーストに反射して崩れてくる波は
ときどきかすかな燐光をなげる……


みをつくし=みおつくし(澪標)の意味は、航路、または水路の標識のこと。古歌では「身を尽くす」という意味の掛詞でもある、含みの深いキーワードです。少年時代から賢治に強い関心を抱いてきたという吉本隆明は、この作品が賢治の死後に草稿の形で遺されていた『銀河鉄道の夜』と照合すると解説しています。

隆明によると、プリオシンコーストは、『銀河鉄道の夜』で主人公のカムパネルラとジョバンニが列車から降りて、銀河の流れに向かう場所のこと。この南十字星は、ジョバンニがもっているどこへでも行ける切符で行くことができる、究極の理想の場所を指している。『銀河鉄道の夜』では、銀河はこの南十字に向かって流れている…

難解とも言われる宮沢賢治の世界観ですが、隆明の解説は糸口になりますね。隆明は、「賢治の感覚は北方的。東北的であったり、蝦夷的であったり、もっといえばアイヌ的であったり」と示し、「アジア的な社会になる前の日本列島にいた人々の感覚にたいへんよく似ており」、「自分と自然とが一体となって溶け合っている感覚」と語ります。(引用:吉本 隆明『宮沢賢治の世界』筑摩書房) 

理想郷「イーハトーブ」は、宮沢賢治の心のふるさと

宮沢賢治記念館

宮沢賢治記念館

隆明が「賢治の関心ももっぱら北方に向いている」とした「北方」はまた、さまざまな貌をもちます。宮沢賢治イーハトーブ館前館長の斎藤文一氏は、その大いなるスケールを教えてくれています。

「南部北上山地は山また山である。森は深く、その闇は、あらゆる色彩を拒否して、超絶的な漆黒の世界を現出している。しかもここには、この森ならではの、なにか生あたたかいものが沈められているような感じがあり、それが、一種のつやめきとなっている。世界は静まりかえっているが、地下では、いのちといういのちがうごめき、息づいているのだ。

古来、この北上山地は、中央の里人をして戦慄させつづけた。(中略)中央からは蝦夷として賤しめられ、しばしば仮想敵国とされ、事もあろうに征伐という名目で、略奪の対象とされてきた。中央から狙われた理由として、この一帯は、金や鉄を産する全国有数の宝庫でもあったからだ。
ここが賢治のふるさとである。彼はこの地で生まれ、育った。この地で夢をふくらませ、銀河系に向けて飛躍したのである。」(引用:斎藤文一『科学者としての宮沢賢治』平凡社 ) 

岩手・花巻で、宮沢賢治の語った「ほんとうの幸」についてもう一度考えてみよう

宮沢賢治童話村

宮沢賢治童話村

そんな宮沢賢治の世界を体感するには、岩手を訪問してみることが一番ですね。

花巻市の宮沢賢治記念館では、特別展が開催中。9月25日までは同人誌や書簡が展示されている「賢治の青春」展、10月1日~平成29年3月31日までは、鉱物・地質学の側面から賢治を紐解く「賢治と石」展が催されます。

宮沢賢治童話村では、夜に森がライトアップされ、「~現実と幻想のはざまで~」と題して、偏光フィルターとステンドグラスが映し出す、幻想的な賢治の作品世界を体感できます。宮沢賢治イーハトーブ館でも、ナイトミュージアム特別上映など多様な企画があります。それぞれの案内をご参照のうえ、どうぞ賢治のふるさとで、賢治の云う、「ほんとうの幸」に思いを巡らせてみてください。



ジョバンニはあゝと深く息しました。
「カムパネルラ、また僕たち二人きりになったねえ、どこまでもどこまでも一緒に行かう。
僕はもうあのさそりのやうにほんたうにみんなの幸(さいはひ)のためならば僕のからだなんか百ぺん灼いてもかまはない。」
「うん。僕だってさうだ。」カムパネルラの眼にはきれいな涙がうかんでゐました。
「けれどもほんたうのさいはひは一体何だらう。」ジョバンニが云いました。



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