日あしもだいぶ短くなってきました。すでに足元にはツルボやキツネノマゴなどの秋の草の花が見かけられ始め、夏の終わりを告げているようです。カラスウリ(Trichosanthes cucumeroides)の花は、なかなか日の暮れない夏の初めのころには、日没とともに青白い花が咲き始めるのを夜の九時ごろまで待たねばならなかったのですが、今頃の時期ではすんなり早い時刻に全開の花を見ることもでき、また盛夏ほどには蒸し暑くもなく鑑賞によい季節です。
と言っても、晩秋の頃に頼りなく樹幹や生垣にぶら下がっている朱色の実は誰もが知っていても、「カラスウリの花」と言ってスッと思い浮かぶ人はむしろ少ないかもしれません。
カラスウリは中国・日本の原産。雌雄異株のツル植物で、木や藪などにからみついて繁茂します。花は7月の終わりごろから9月まで次々咲き継ぐ一日花で、日暮れとともに開花をはじめて、翌朝にはしぼんでしまうため、めったに人の目には触れません。切れ込みの深い星型の五弁花で、特徴は何と言っても花弁の外輪が糸状に裂けて広く広がるレース模様に縁取られること。完全にレース状の糸弁が開ききったときには直径は10センチ以上にもなります。花筒は深く、蜜が筒の奥にあるため、口吻の長いスズメガによる受粉に特化した「スズメガ媒花」の一種として共依存関係にあります。
青白いレース模様を広げたカラスウリの花に、ハチドリのようにホバリングしながら長い口吻をのばしてスズメガが跳びまわる様子は、夏の夜にひっそりと行なわれる妖しく美しい饗宴です。