海のミルク
誰もが独特の姿と味を思い浮かべることのできるメジャーな貝であるカキ。でもよくよく考えると、なんだかよくわからないやつだと思いませんか。
お店で提供されるときは、船のように殻に乗って出てきますが、その姿はハマグリやホタテとも、アワビやトコブシとも、サザエともちがいます。歯ごたえも、普通の貝のプリッとした歯ごたえがなく、どろっとしていますよね。そしてついてくる殻は表面はゴツゴツしていて不整形。実はこれは、片側にふたのようについていた殻を外して取り去った姿。カキはアサリやハマグリ、アカガイやホタテと同じ二枚貝の仲間です。ウグイスガイ目イタボガキ科とベッコウガキ科・マガキ属(Crassosrea)に属し、世界に100種類、日本近海にも20種類ほどの生息が知られています。ほとんど魚介を生で食べる風習のないヨーロッパでも唯一生で食べ続けられている魚介類で、養殖も何とローマ帝国時代から行われていました。
自然でのカキは、卵として水中に放出されると水中で受精して孵化します。約1日で殻が形成されて幼生となり海の中を2週間ほど漂い、岩や人間の作ったコンクリートなど、適当な場所を見つけると、片側の殻(左殻)からカルシウムで出来た接着物質で付着し、一生その場から離れません。はがすと、付着している側が大きく膨らんで成長し、付着していない側(右殻)は比較的平べったく成長します。
エサは植物プランクトンで、大量の海水と一緒に吸い込みエラで濾しとります。動かないために筋肉はまったく必要なく、退化しています。取り入れた栄養は内臓などの成長に使われ、蓄積していきます。筋肉がなく、体のほとんどが内臓のため、貝独特のプリプリとした弾力はなく、やわらかくつるりとしたカキ独特の食感が形成されるのです。エネルギー消費が少ないために取り込んだ栄養は濃縮されて蓄積し、亜鉛は普通の二枚貝の約5~6倍もの量が含まれています。他にも鉄分などのミネラル、タウリン、エネルギーの源となるグリコーゲンを大量に含み、肝機能や視神経、血圧の抑制などに大きな効果がある優れものです。
このやわらかいとろけるような食感と、独特の苦味と甘みが調和したミルキーな内臓が、「海のミルク」といわれる由縁です。