風が押し分け波打たせて通り過ぎます
夏休み明けの9月1日(二百十日の日)。風が「どう」と吹く朝に、三郎くんという転校生がやってきました。
赤っぽい髪の見慣れぬ姿や変わった動作に、山あいの小さな小学校の子どもたちは緊張します。同学年の5年生・嘉助くんは「あいづは風の又三郎だぞ」と叫び、暴風をもたらす伝説の風の精が二百十日で来たにちがいないと怪しみます。一年生はひたすら怯え、六年生の一郎くんは「そんなはずないだろ」と内心思いつつも、これまでの平穏な日々を乱す存在に複雑な思い・・・
三郎くんは北海道から来たと紹介され、しゃべる言葉は先生と同じく、ほぼ標準語。にもかかわらず、初対面の子どもたちには外国語のように聞こえたそうな。
当時の田舎の子にとって、「村の外」は「国の外」もっといえば「この世の外」と同じくらいの、果てしなさ・実体のなさだったようです。そう考えると、もしかしたら先生の標準語は東北訛りで聞き取りやすかったのかもしれませんね。
三郎くんは物怖じすることなく、皆と行動を共にします。けれども、なかなか意思疎通が難しく、子どものプライドから、一見のどかな遊びの中にはさまざまな心理的駆け引きが! そしてなぜか、「どう」という風が吹くたびに、皆は不思議なものを見たり聞いたりするのです。
台風がきた月曜日、胸騒ぎをおぼえて早めに登校した一郎くんと嘉助くんに、先生は三郎くんが昨日急に転校していったと告げるのでした。