「半夏生(はんげしょう)」とは、七十二候では夏至の末候にあたりますが、「八十八夜」と並んで江戸時代の農民にとって重要な雑節でもありました。この日、太陽の黄経が100度を通過し、夏至から数えて11日目にあたる日です。
そもそも雑節は、農作業に照らし合わされ作られた暦日。梅雨の終わりにあたる「半夏生」は、田植えをすませる目安とされた節目。「半夏生前なら半作とれる」という言い伝えもあり、これは、田植えが遅れても半夏生前なら平年作の半分は収穫できるという教えなのだそうです。
また「半夏」とは、仏教で90日にわたる夏安居(げあんご)の中日、45日目のことでもあります。
湿気が重くたちこめるこの頃、梅雨空の天から毒気が降るため井戸の蓋を閉めたり、地が陰毒を含んで毒草が生じるとも言われ、「カラスビシャク(烏柄杓/別名:半夏、サトイモ科)」が咲き始めます。
このカラスビシャクですが、花の姿も毒草らしく一種異様な雰囲気で、蛇が鎌首をもたげ舌を出しているような佇まい。生のままでは有毒だという、庭先や田の畦に生える雑草です。その根茎は生薬の「半夏(はんげ)」となり、体を温め、停滞しているものを動かし、発散させる作用が。嘔吐を止め、つわりなどにも効果があるとされています。また、球茎から茎が取れたあとが、へそのように窪んでいることから、別名は「ヘソクリ」。昔の農家の人々はこれを掘り貯めては薬屋に売っていたそうで、内緒でお小遣いを貯める“へそくり”の語源はここから生まれたのだそうです。